配信日:2021/3/9

医療機関におけるサイコエデュケーションコースへのペアレント・メンターの協力

愛知県医療療育総合センター中央病院
吉川徹


サイコエデュケーションという用語は心理教育などと訳され、いろいろな意味で使われますが、ここでは精神疾患や障害について、主に患者の家族に対してその疾患とつきあっていくための知識や対処方法を伝えていく取り組みのことを指しています。精神医学の中では統合失調症についてのサイコエデュケーションから取り組みが始まり、発達障害の領域にも展開してきています。

愛知県医療療育総合センターでは2006年から『自閉症を学ぶ会』(現在は『自閉スペクトラム症を学ぶ会』)として、ご家族に対するサイコエデュケーションのコースを始めました。対象はセンターの中央病院で自閉スペクトラム症の診断を受けられた就学前のお子さんのご家族で、毎回おおむね数人から10人くらいの固定したグループで行っています。開始当初は1回90分、全6回のコースで開催し、当初は心理士2回、言語聴覚士1回、作業療法士1回、ソーシャルワーカー1回、児童精神科医1回の講義と質疑応答で構成していました。専門家からの講義もそれなりに評価はいただいていたのですが、それにもまして参加されている他のご家族からの質問を通じて、お互いに共感したり、されたりといったやりとりや、各回が終了した後の、ご家族同士の交流などもとても好評でした。

こうしたことから、やはり各専門家からの情報伝達だけでは、診断後間もないご家族のニーズには応えきれないとも考えて、2014年から全7回に拡大し、そのうちの1回に愛知県ペアレント・メンター等活動推進連絡会のメンターさんをお迎えしてお話ししていただき、参加されているご家族同士の交流を中心とした会を設けることとしました。特に近年では当院が主に診療圏としている地域にお住まいのペアレント・メンターさんに来ていただくことができるようになり、地域の情報の共有もはかることができるようになり、参加されたご家族からも高く評価していただいています。

こうした活動の積み重ねから、2020年からは文部科学省から科学研究費をいただくことができるようになり、この『自閉スペクトラム症を学ぶ会』の立ち上げから尽力していただいた現・和歌山大学の竹澤大史先生を中心として「発達障害児の養育者を対象とした早期支援プログラムの開発 https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-20K03048/ 」というテーマで、本格的な研究プロジェクトとしても開始されています。またCOVID-19の流行に対応するために、オンラインでの開催にも取り組みはじめています。

愛知県医療療育総合センターには病院の他にも『親子療育の家』 https://www.pref.aichi.jp/soshiki/addc/oyakoryouikunoie.html という、数十年にわたってピアサポートを核として家族同士の交流と支援に取り組んできた施設があります。2020年度からはこちらの事業でもペアレント・メンターの方にいらしていただき、グループミーティングに参加していただくという取り組みを始めています。こちらの事業にはまだ診断を受けていない方なども利用される場合があり、病院での活動とはまた違ったピアサポートのニーズがあるようにも感じています。

こうした診断を受ける前の方、診断後間もない方へのペアレント・メンターの関わりには、親の会の中などでの活動とは異なったニーズや配慮が必要な点があります。愛知県ではメンターの中からもそうした声が上がり、2020年度の応用研修として、あらためてメンターの役割の確認と特に未診断や診断後間もない方に関わるときのポイントなどについて、学んでいただくための研修が開催されました。ペアレント・メンターの存在が周知され、活動の幅が広がって行くにつれ、継続した研修の実施の必要性を再確認する機会も多くなってきました。地域の支援者としては、今後の安定した活動の継続と更なる発展に大いに期待したいと思っています。