配信日:2021/2/18

みなさん、こんにちは。
今回は情報提供として以下の研究をご紹介したいと思います。メンター活動で自分の体験を話すという機会があるかと思いますが、そんな時の参考になれば幸いです。


井上雅彦・奥田泰代 (2020)

ペアレント・メンターにおける自己体験の語りの意味
自閉症スペクトラム研究 18(1),15 – 20.


発達障害の親であり親のための相談者であるペアレント・メンターの役割として、私たちは以前から「傾聴と共感」、「地域の情報提供」の二つをあげてきました。しかし、メンターの体験を聞きたいという相談者の親御さんからのニーズは強く、また実際に活動の中で行われていることから、最近は第三の役割として「自分の体験を語る」を応用として取り上げてきています。

この研究では、メンターが自らの体験の語りについて、聞き手である他者との関係の中でどのように捉え、価値づけしているのかを検討するため、ペアレント・メンター 52 名 (51 名が子どもに自閉スペクトラム症の診断あり)を対象に自分の体験を話した機会とその肯定的体験、否定的体験 及びその理由について自由記述の質問紙で回答を求めました。

それらの内容は KJ 法に準拠した手続きにより整理・分析されました。本研究の結果から、ペアレント・メンターがメンター活動の中で自己体験を語るさまざまな機会が示されました。特に肯定的体験や否定的体験になりやすいカテゴリ項目が存在すること、また同じカテゴリの項目でも関与する要因によって、 肯定的体験にも否定的体験にもなりうることも明らかになりました。

またこれらの体験に関与する要因として、【聞き手からの共感】【聞き手との交流】【達成感】【語りへの抵抗】という4つが得られました。これらの結果をもとに、ペアレント・メンターが自己体験を話すことの意味とメンターの語りという活動への支援のあり方について考察しました。

この研究から、メンターが自己体験を話すという活動の中で新たな価値を発見したり、自分の体験の意味を肯定的に捉えることができる、というポジィティブな可能性が示唆されました。また逆にメンターが話したいことを話すだけでは聞き手である親に伝わらないだけでなく、相手からも共感を得られず、結果的に体験を語ったことがネガティブな体験になってしまうリスクもあるということが示唆されました。

自己体験の語りから相手の共感を得るためには、相手がメンターの体験の何を知りたいのかを知る必要があります。そのためには、やはりメンター自身が傾聴や共感ができていることが前提であるといえるでしょう。聞き手のニーズを理解するためには傾聴と共感が基本となるからです。また、自己体験の語りの前にメンター同士で練習したり、確認するなど、事前のサポートや研修も必要ではないかと思いました。

文責 井上雅彦